眼振検査

2009年10月20日火曜日

Ewald's first law & Flourens' law


末梢性眼振と中枢性眼振との最も顕著な違いは何であろうか。両者の最も基本的な違いは、末梢性眼振では、障害を受けた半規管に水平な面における眼球の回転が生じるのに対して、中枢性眼振は眼球の回転軸と半規管との間にはっきりとした関係が認められないということである。

When faced with a patient who has vertigo and nystagmus, the clinician must decide whether that nystagmus is due to a “peripheral” lesion in the vestibular end-organ or a “central” lesion in the brainstem or cerebellum. One useful guideline is Ewald’s first law, which implies that the trajectory of nystagmus generated by a semicircular canal (SCC) should reflect the anatomic orientation of that SCC. For example nystagmus generated by the lateral SCC is predominantly horizontal, and nystagmus from the anterior or posterior SCCs is thought to be mixed torsional and vertical, because those SCCs are oriented diagonally in the temporal bone. Electrical stimulation of individual SCC nerves in frontal- and lateral-eyed animals has confirmed this relationship between the axis of the SCC and the axis of the resulting eye rotation. (Cremer, PD, et al.: Posterior semicircular canal nystagmus is conjugate and its axis is parallel to that of the canal. Neurology 54:2016-2020,2000)

上図のaは半規管の存在する平面を模式的に表したものである。前半規管と後半規管は矢状面と約45度の角度をなす。したがって右側の後半規管と左側の前半規管とはほぼ平行な平面に存在する。そして頭部に回転角速度が加わり右側の後半規管が興奮刺激を受ける際には左側の前半規管は抑制刺激を受ける。逆に左側の前半規管が興奮刺激を受ける頭部の回転運動では右側の後半規管は抑制刺激を受ける。同様に右側の前半規管と反対側の後半規管もほぼ平行な平面に存在し、両者の刺激・興奮には同様の関係が存在する。一方、左右の水平半規管は同一平面に存在すると考えてよい。右側の水平半規管が興奮する頭部の回転運動では左側の水平半規管は抑制刺激を受け、逆に左側の水平半規管が興奮する頭部運動では右側の水平半規管は抑制刺激を受ける。

<続く>

固視と注視

固視と注視はよく混同して用いられている。たとえば、「固視下の眼振」が「注視眼振」と表現されているのをよくみかける。
 
両者は厳密に区別して用いられなければならない。「固視する」は英語の「fixate」のことである。一方、「注視する」は「gaze」のことである。ちなみに、Merriam-Webster’s Medical Dictionaryによれば、「fixate」と「gaze」は以下のように説明されている。
 
Fixate: to focus one’s gaze on
Gaze: to fix the eyes in a steady and intent look
 
つまり、「gaze」すなわち「注視する」とは、視線方向を示す言葉である。これに対して「fixate」すなわち「固視する」とは、見ようとしている物体の像を中心窩で的確にとらえることを意味する。「的確に」とは「静止像として」という意味である。
 
したがって「固視下の注視眼振」といった表現や「Frenzel眼鏡装着時(非固視下)の注視眼振」という表現が可能となる。
 
ちなみに、Practical Management of the Dizzy Patient 2nd Edition (Joel A. Goebel (ed), Wolter Kluwer) では、注視眼振(gaze-evoked nystagmus)を次のように定義している。
 
“Gaze-evoked nystagmus (GEN) is a type of spontaneous nystagmus (SN) that is produced when the patient’s eyes assume an eccentric position within the orbit.”

眼振検査では何を見ているか

眼振には生理的な眼振と非生理的な眼振がある。たとえば、視運動性眼振や温度眼振は生理的眼振である。もし適切な視運動刺激によって視運動性眼振が誘発されなければ何らかの病態が神経系に存在することが示唆される。温度眼振も同様である。意識が鮮明であるにもかかわらず氷水刺激でも温度眼振が誘発されなかったとしたら明らかに異常といえる。
 
反対に、自発眼振や注視眼振は非生理的な眼振といえる。つまり、これらの眼振は健常人には認められない。換言すれば、もしこれらの眼振が認められれば、それだけで神経系に何らかの異常が存在するといえる。
 
眼振検査を進めるにあたって常に留意しておかなければならないのは、「出現すべき眼振が出現するか」という点と、「出現すべきではない眼振がほんとうに認められないか」という点である。
 
眼振検査を進めるにあたってもうひとつ重要なことは、出現すべき眼振の強度と性状に異常がないかどうかという点に留意するということである。温度眼振が左右どちらの耳を刺激した際に出現したとしても、その強度に高度の左右差があれば、何らかの異常があるのではないかと推測される。
 
もうひとつ重要な点は、眼球運動や眼振の発現に関与する神経系のヒエラルヒー(上下関係)の逆転現象が起きているのではないかという点に注目するということである。たとえば、固視機能に関与する機構は視運動性眼振を発現させる機構よりも高位の神経機能である。したがって視運動刺激の最中にレーザポインタなどを使用して一点を固視させると視運動性眼振は著しく減弱もしくは消失する(図1)。同様に固視機能は前庭眼反射や温度眼振よりも高位にある(図2、図3)。
 
固視により抑制されることが末梢前庭性眼振のひとつの特徴である。固視機能は中枢神経系の機能であるため、もし固視抑制が認められなければ何らかの異常が中枢神経系に生じていることが示唆される。
 

はじめに

めまいの診断において眼振の有無とその性状の観察・記録は最も重要な検査のひとつとなっている。しかし眼振検査を楽しいと感じている医師は少ない。その大きな原因のひとつは、個々の眼振検査は何を知ろうとして行われるのかに関する理解が乏しいことではないかと考えられる。

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